今までになかった革新的なものを生み出すために、
あなたは、なにが必要だと思いますか?
もしかすると、
「ひらめき」
という答えが返ってくるかもしれません。
しかし、第一線で活躍するクリエイティブな人たちの声に耳をかたむけてみると、
どうやら、必要なのは「ひらめき」だけではないようです。
むしろ、「ひらめき」よりも大切なことがあるようです。
そのことについて考えるために、次のお二人にご登場願おうと思います。
1人目は、ジブリ映画でおなじみで、世界的な評価も高いアニメーター、
宮崎駿さん
です。
そして、2人目は、1999年の『インダストリアル・ウィーク』誌において、
ピーター・ドラッカー、マイケル・ポーター、ビル・ゲイツ、
ジャック・ウェルチ、アンディ・グローブとともに、
「経営に関する世界の六賢人」に選ばれた、
エイドリアン・スライウォツキー・・・・・・
・・・・・、の著書であるビジネス小説の登場人物であり、
「ビジネスで利益が生まれる仕組みを知り尽くした男」、
デビッド・チャオ
です。
この二人が創造性について語った話のなかから、
「今までになかった革新的なものを生み出す」
ということの本当の意味を考えてみたいと思います。
ラーメンを毎日毎日おいしくするのはね、大変なのと同じ仕事ですね
以下は、ジブリの宮崎駿さんが、
映画『もののけ姫』を製作する現場にて話された言葉です。
延々たるさえない日常を送るのが労働というものなんですよ
仕事というのは全部、基本的に忍耐なんです。
めんどくさいですね、こうやればいいんだってことを、わかっていることを何度も繰り返さなきゃいけないないから。
それが仕事なんですけどね。
仕事ってのは。
だから、ラーメンを毎日毎日おいしくするのはね、大変なのと同じ仕事ですね。
前は、創造的な仕事だと思ってたけど、仕事ってのはみんな同じだとこのごろ思うようになって。
一回だけおいしいラーメンを作るのはできるんですよ。
毎日おいしい味を作って、しかも、常連が飽きないように時々味をかえるなんてのはね。
(宮崎駿、『「もののけ姫」はこうして生まれた。』) [5]
イノベーションの成否を分けるのは
以下は、エイドリアン・スライウォツキーのビジネス小説『ザ・プロフィット』の登場人物、
デビッド・チャオの言葉です。
何らかのイノベーションの上に構築されるビジネスにとって、苦役、つまり退屈な仕事が最大の試練となる。
以下は、この小説の中でデビッド・チャオが紹介した、
イノベーションに関する記事の内容です。
「イノベーションの成否を分けるのは、単調な骨折り仕事をマスターできるかどうかだ。創造のプロセスは通常は輝くようなアイデアから始まる。このすばらしいアイデアに見込みがあれば、次にはビジネスの見地から見て進める価値があるかどうかを決定する。このあたりは心躍る部分だ。知的には恐らく最も刺激的であろうが、同時に比較的容易な部分でもある。
続いて、そのアイデアを実行段階に引き下ろすという現実的な仕事がくる。これがイノベーションの中で最も単調な部分であり、人々に対するプレッシャーや鼓舞のほとんどはここで必要になる。新しいアイデアについての当初の興奮を思えばどんなエネルギーでも生み出せると考えるかもしれないが、その後そのアイデアを反復生産可能な製品に転化しようとする過程で、人々は穴蔵に潜り込んだような仕事を長期間続けることになる。
(中略)」
(邦訳『DIAMONDハーバード・ビジネス』一九九〇年七月号)
(エイドリアン・スライウォツキー、『ザ・プロフィット』) [6]
革新的なものを生み出すために、本当に必要なこととは、
ここまでで、以下のようなフレーズが登場しました。
- 「延々たるさえない日常を送る」
- 「仕事というのは全部、基本的に忍耐」
- 「退屈な仕事が最大の試練となる。」
- 「単調な骨折り仕事をマスター」する。
- 「わかっていることを何度も繰り返さなきゃいけない」
- 「ラーメンを毎日毎日おいしくするのはね、大変なのと同じ仕事」
- 「毎日おいしい味を作って、しかも、常連が飽きないように時々味をかえる」
- 「アイデアを実行段階に引き下ろすという現実的な仕事」
- 「アイデアを反復生産可能な製品に転化しようとする過程で、
人々は穴蔵に潜り込んだような仕事を長期間続けることになる。」
これらのフレーズから、
革新的なものを生み出すために、本当に必要なことについての
重要なキーワードを抜き出すと、以下のようになります。
- 「延々たるさえない日常」
- 「忍耐」
- 「退屈な仕事」
- 「単調な骨折り仕事」
- 「何度も繰り返さなきゃいけない」
- 「毎日毎日」
- 「毎日」
- 「現実的な仕事」
- 「穴蔵に潜り込んだような仕事」
- 「長期間続ける」
これらのキーワードを、無理やりつなぎ合わせてみると、
「革新的なものを生み出すために、本当に必要なこと」とは、
次のようなことだといえます。
「現実的で退屈で単調で穴蔵に潜り込んだような骨折り仕事を、
毎日毎日毎日、何度も繰り返し長期間続けるという
延々たるさえない日常を忍耐でもって乗り越えること」
このように、
「革新的なものを生み出す」という行為は、
決して、人目を引くような華々しい派手な仕事ではなく、
むしろ、地味で目立たず、永続的な我慢が必要な作業であるようです。
詩三百篇は、大抵聖賢發憤の為作する所なり
此の人は皆意に鬱結有り
余談ですが、この文章の冒頭の、『報任少卿書』(任少卿に報ずるの書)のなかで、司馬遷は次のような意味のことを言っています。
文王は獄中で『周易』を著し、孔子は災厄に遭って『春秋』を著し、屈原は国を追われて『離騒』を著し、左丘明は視力を失って『国語』を著し、孫臏は足切りの刑を受けて『孫臏兵法』を著し、呂不韋は蜀に左遷されて『呂氏春秋』を著し、韓非子は秦国に囚われて『説難』『孤憤』を著した。
詩三百編はその多くが、聖人や賢人たちがやり場のない思いをぶつけることによって作られたものである。こうした人々は皆、心に鬱結するものがあった。
(司馬遷、『報任少卿書』) [7]
このように、古来の賢人たちは、しばしば耐え難い苦難に遭っているものの、逆にその苦しみのなかで奮起することによって、今日にまで残るような作品を作り上げたのです。
現代に生きるわれわれも、彼らのように、逆境にあってもくじけず、日々着実に己のすべきことをやり抜けば、いつか必ず大事成るときがくるでしょう。
- (引用元、著:原田種成、著:竹田晃、編集:小嶋明紀子、「報任少卿書」(任少卿に報ずるの書)、『文選 文章篇 (新書漢文大系 35)』、明治書院、2007年、130~131ページ)[Back ↩]
- (解釈:「耐え難い気持ちを押さえ、からくも命を長らえて、汚泥の中に身を堕しても我慢しているのは、私の、心の思いが尽くされることのないまま永遠に私の名が、世にうずもれ、文章が後世に伝えられないのを残念に思うからであります。」(引用元、著:原田種成、著:竹田晃、編集:小嶋明紀子、「報任少卿書」(任少卿に報ずるの書)、『文選 文章篇 (新書漢文大系 35)』、明治書院、2007年、131ページ)[Back ↩]
- ("Bearing" (U.S. Navy photo by Photographer's Mate 3rd Class Dominique M. Lasco at Wikimedia Commons))[Back ↩]
- (「bearing」(ベアリング)という言葉には、「辛抱」や「我慢」という意味もあります。)[Back ↩]
- (メイキング・ドキュメンタリー『「もののけ姫」はこうして生まれた。』、「第2章 生命が吹き込まれた!」)[Back ↩]
- (エイドリアン・スライウォツキー、『ザ・プロフィット : 利益はどのようにして生まれるのか』、2002年、ダイヤモンド社、75~76ページ)[Back ↩]
- (参考文献、著:原田種成、著:竹田晃、編集:小嶋明紀子、「報任少卿書」(任少卿に報ずるの書)、『文選 文章篇 (新書漢文大系 35)』、明治書院、2007年、131~132ページ)[Back ↩]