新たな世界への扉

(*1)

 

「どんな問題をやるにせよ、
 それをやらなければ生きてゆけないというテーマを探すのですね」

―― 上原専禄の言葉(阿部謹也、『自分のなかに歴史をよむ』) (*2)

 

「私は一夜にして研究者となった」―この頃にはすでにシュパヌートは、自分が死ぬまでこの伝説から解放されることはあるまいという予感を抱いていた。「私は鼠捕り男に身も魂も奪われてしまったのである」と。

―― 阿部謹也、『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』 (*3)

 

おもしろいつながりと、新たな世界への「扉」

新たな世界への「扉」 (*4)

ぼくが本を読んでいてとても胸が高鳴るのは、別々の本に書かれている一見まったく関係ないことがらのあいだに、おもしろいつながりを感じるときです。

そいうときは、もう、だれかにそのことを話したくて話したくてしょうがない、ウズウズした気持ちになります。

そうやって、新しい世界に足を踏み入れていくのがたのしいです。

ぼくは、これまでに、いろいろな本に新たな世界への「扉」を開いてもらいました。

なので、ぼくもだれかを新たな世界への「扉」の先へと案内してあげられたらいいなとおもっています。

下の写真のなかの本は、ぼくがとても知りたいとおもっているたいせつなことがらのなかで、いまとくに興味があるいくつかのことがらについて、いろいろとつながりを感じている本です。

ちなみに、下のURLの記事の動画も、こうした本を読んで知ったおもしろいことを、ほかの人たちにも紹介したくてつくったもののひとつです。

http://wisdommingle.com/?p=13001

こうしたものをとおして、いろいろな人たちに、いろんなおもしろいことを紹介できたらいいなとおもっています。

「ほら、新しい世界へのドアが開いた。
 
 わたしはそこで何を見つけられるかな」

(アーシュラ・K・ル=グウィン、『いまファンタジーにできること』) (*5)

 

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「この日から私はこの伝説に夢中になってしまいました」

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なぜなら、私にとって歴史は自分の内面に対応する何かなのであって、自分の内奥と呼応しない歴史を私は理解することはできないからです。

―― 阿部謹也『自分のなかに歴史をよむ』 (*6)

 

「それをよんで、一瞬体のなかを電気が流れたような気がしました。ハーメルンの笛吹き男とは、子どものころよんだ絵本のなかに描かれていた、まだらの服を着た笛吹き男のことなのか、中学校の英語の教科書にもハーメルンのパイドパイパーの話としてのっていたあのおとぎ話のことなのか、メルヘンだとばかり思っていたあの話は、もしかすると現実の歴史的事件と交錯する何かをもっていたのかもしれない、と感じたためです。
 この日から私はこの伝説に夢中になってしまいました。」

(阿部謹也、「ハーメルンの笛吹き男とは」、「第五章 笛吹き男との出会い」、『自分のなかに歴史をよむ』、ちくま文庫、筑摩書房、94~95ページ)

 それははじめほんの偶然の結果にすぎなかった。一九三四年夏、シュパヌートが退職した翌年にハーメルン市は〈鼠捕り男伝説〉の六五〇年祭りの開催を計画したのである。それはどのような記念祭にもみられるように最初は単なる行列、祭劇といった企画でしかなかったが、最後の瞬間になって市の委員会は本質的なものが見落とされていることに気付き、シュパヌートに伝説そのものとその発展についての展示を行うよう依頼したのである。
 公然と世間に出ることが出来ない立場におかれていたシュパヌートであったが、こうした仕事なら安全だと市当局は考えたのである。準備の期間は六週間しかなかった。しかしシュパヌートは自分の他の仕事のすべてを中止して、この仕事にとりかかった。シュパヌート自ら述べているように、当時は「この仕事が何を意味しているのか、この一歩が自分自身と自分の将来の生活にどれほどの影響を与えることになるのかまったく予感していなかったのである」
「人生には自分が自発的に行動しているように見えず、ただ何かの道具でしかないように見える時期がある。そのような時、われわれはあるがままの自分自身から高められ、平常なら到底出来そうもないような仕事を遂行してしまうものだ」。シュパヌートはこの展示会を引き受けたときの状況をあとから回想して、このようにしか説明出来ないと述べている。
 展示会は終わった。あとに残されたのは伝説に関する夥しい数の史料と、これまでまったく知られていなかった、あるいは名前しか知られていなかった文献等であった。すでに展示会の準備のために史料探訪を行ない、発註し、借り出し依頼をしたり、編集したりする過程で、シュパヌートはこの伝説研究の当時の水準を知悉するにいたった。自ら多くの素材を集めた結果、これらの史料はまったく新しい観点から編集し直さねばならないとの確信を深めたのである。
「私は一夜にして研究者となった」―この頃にはすでにシュパヌートは、自分が死ぬまでこの伝説から解放されることはあるまいという予感を抱いていた。「私は鼠捕り男に身も魂も奪われてしまったのである」と。

(阿部謹也、「伝説の中を生きる老学者」、「現代に生きる伝説の貌」、『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』、ちくま文庫、筑摩書房、1988年、294~295ページ)


阿部謹也、『自分のなかに歴史をよむ』


阿部謹也、『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』


良知力、『向う岸からの世界史―一つの四八年革命史論』


高橋昌明、『酒呑童子の誕生―もうひとつの日本文化』

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脚注
  1. 無料の写真: 図書, ストーリー, フォレスト, 不思議な世界, マジック, ドア - Pixabayの無料画像 - 2885315 by Reinhardi, on Pixabay)[↩ Back]
  2. (上原専禄の言葉(阿部謹也、「ハーメルンの笛吹き男とは」、「第五章 笛吹き男との出会い」、『自分のなかに歴史をよむ』、ちくま文庫、筑摩書房、18ページ))[↩ Back]
  3. (阿部謹也、「伝説の中を生きる老学者」、「現代に生きる伝説の貌」、『ハーメルンの笛吹き男―伝説とその世界』、ちくま文庫、筑摩書房、1988年、295ページ)[↩ Back]
  4. 「新たな世界への「扉」」、Mum and her kids reading book in a tepee tent . Ve by masastarus on Envato Elements[↩ Back]
  5. (アーシュラ・K・ル=グウィン、翻訳:谷垣暁美、「メッセージについてのメッセージ」、『いまファンタジーにできること』、河出書房新社、2011年、174ページ)[↩ Back]
  6. 阿部謹也 (2007年) 「あとがき」, 『自分のなかに歴史をよむ』, ちくま文庫, 筑摩書房, 212ページより.[↩ Back]