『石山寺縁起絵巻』第1詞書_002
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段詞書ことばがき

『石山寺縁起絵巻』第1絵図
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段絵図

 

都にも人やまつらん石山の峰に残れる秋のよのつき

―― 藤原長能『新古今和歌集』 [1]

志賀の浦や遠ざかり行く浪まより氷りて出づる有明の月

―― 藤原家隆『新古今和歌集』 [2] [3]

寺社縁起は、むしろ文書資料以上に過去の社会と精神生活について多くの知見をはらんだ文献であろう。それは読み方に従い、一層豊かな世界を物語りうるものである。

―― 阿部泰郎「比良山系をめぐる宗教史的考察」 [4]

 

『石山寺縁起絵巻』第1段絵図
比良明神ひらみょうじん(岩に座して釣り糸を垂れる老翁)と、良弁ろうべん僧正
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段絵図

ここでは、『石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』の詞書ことばがきと絵図を紹介します。

石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』には、香取本かとりぼん『大江山絵詞』おおえやまえことばの絵巻のなかに描かれている、酒天童子(酒呑童子)の原型のひとつとなったとおもわれる、比良明神ひらみょうじんという神が登場します。

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第1段の詞書ことばがきと絵図

『石山寺縁起絵巻』第1段絵図
比良明神ひらみょうじん(岩に座して釣り糸を垂れる老翁)と、良弁ろうべん僧正
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段絵図

 

この姿はいづれも水神としての要素をあらわし、なかでも釣竿は水界を支配する表象であると解釈して、「釣をする老翁は、水界支配に関わり、水路さらには土地の教導者」としての神であるという(堅田修氏「寺院縁起の研究」大谷大学研究年報三一 昭和五三)。〔中略〕その特質は、それらの物語の構造の中で、国土や聖地の建立に際しての仲介者という役割に要約される。その背後には、それらの土地の根源的な支配者としての姿をうかがうことができる。この神が、新たな物語の主人公(神話における新たな神や王、縁起における仏菩薩)にその領域を譲与する経緯が、それらの物語では定型化して表現されるのである。縁起ではすなわちその存在を「地主神」という。それぞれの聖地における潜在的な根源がこの神であることを暗示している、といえよう。以上のように白鬚明神の縁起は、その表現するところは多様な展開を示しているが、その基本的な構造は変っていない。比良山と琵琶湖を中心とした世界のなかで、比良明神と連なりながら、中世における根源的な神のひとつとして、常に登場する神なのである。

―― 阿部泰郎「比良山系をめぐる宗教史的考察」 [5]

 比良神は、また白鬚明神と名く、釈書〹八いわく聖武天皇天平年中東大寺の良弁、近州勢多に至る、時に神化して釣魚の翁とり弁にいわく「我は是れ山主、比良の明神なり、この地は観音の霊区なり」と、語りおわりて見えず、弁によりて石山寺をその地に創す

―― 「五所明神祠中院」, 「寺門伝記補録じもんでんきほろく第五」 [6]

志賀しがうらゆるけしきのことなるは比良ひら高嶺たかねに雪やるらん

―― 慈円じえん (慈鎮和尚じちんかしょう)『拾玉集』[歌番号35] [7]

 

石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第1段の詞書ことばがきと絵図

『石山寺縁起絵巻』第1詞書
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段詞書ことばがき

『石山寺縁起絵巻』第1詞書
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段詞書ことばがき

『石山寺縁起絵巻』第1詞書
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段詞書ことばがき

『石山寺縁起絵巻』第1絵図
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕
第1段絵図

『石山寺縁起絵巻』第1段絵図
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段絵図

『石山寺縁起絵巻』第1段絵図
比良明神ひらみょうじん(岩に座して釣り糸を垂れる老翁)と、良弁ろうべん僧正
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段絵図

『石山寺縁起絵巻』第1段絵図
比良明神ひらみょうじん(岩に座して釣り糸を垂れる老翁)と、良弁ろうべん僧正
石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』〔模写〕〔一部分〕
第1段絵図

下記の文章は、『石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』(『石山寺縁起いしやまでらえんぎ』)の第1段の詞書ことばがきの文章です。

夫石山寺者
聖武皇帝之勅願、良弁僧正之草創也。本尊は二臂の如意輪六寸の金銅の像、聖徳太子二生の御本尊云々。丈六の尊像を造て其御身に彼お像をこめたてまつる。左右に脇士あり。左は金剛蔵王、右は執金剛神なり。凡仏法の効験、権者の化儀、理常篇にたえ事幽玄に出たり。しかるを殊に当寺の濫觴は本朝の奇瑞なり。所謂本願師資の芳契、はるかに流沙の遠源よりおこり、大聖垂跡の来由たちまちに江州の霊崛をしめたまふ。蔵王の作るところ、黄金を祈て盧舎那仏の荘厳をそへ、古老のかたるところ、紫雲を尋て比良の明神の施興を得たり。是を旧記に撿てみな不朽に伝ふ。爾以降それよりこのかた、瑜伽上乗の宝林をなして鄧林の茂をあらそひ、練行陰徳の士山にありて泰山のたかきにたくらふ。名一天にかゞやく。護持の勝利屡々あらはれ、潤四海におよぶ。済度の巨益をほどこす。是以聖代明時朝家の尊崇他に異なり、後椒仙院宮囲の渇仰あさからず。或翠花を補陀岩の上にめぐらし、或は錦帳を忍照海の傍へよそへ、しかのみならず槐門丞相の精祈懇棘の露しげくしたて、柳営武将の帰依、大樹の風ひさしくあふぐ。古より今に普門の示現やむことなく、貴より賎まで悉地の成就これ新なり。惣て六十二億恒河沙の菩薩の中に、観音の功徳殊にすぐれ、三千塵刹娑婆界の衆生の間に、吾国の因縁尤深。我国にゐては、当寺の本尊利生方便不思議甚多。是則機感時にかなふ。春の万国に行がごとし。枯木も花をひらくべし。信心応をまねく。月の文江に印するにゝたり。滴水にも又影をわかつ。倩思に、此理弥増歓伏。故に且は内証外聞値遇の恩徳を報じたてまつらんがため、且はふるきをたづねてあたらしきをしる将来の見聞に伝へしめむがために、王公卿士より童男童女にいたるまで、平等の法雨普そそぎて善根を二世の福田に萌し、恭敬礼拝より一色二香を供するまで、無辺の慈雲広く覆て、迎接を九品の浄刹に期するたぐひ、旧記分明にして証迹掲焉なり。其中に猶うたがはしきを闕てまことをあつめ、しげきを除て要をとる。大慈大悲分身応化の救に擬して、三十三段満足所求の篇を立つ。文字其詞を勒す、凡聖本へだつる事なし。画図其形をあらはす。賢愚ともにみつべし。披覧の処後素のいたづらなる翫といふ事なかれ。巻舒の時、すべからく中丹のふかき心を観ずべし。于時ひとり楽浪さざなみや大津宮に、霊験無双の伽藍あることを記するのみならず、聖化正中の暦、王道恢弘し仏化紹隆する事をしらしめむとなり。本願良弁僧正は、前生に行人として舎衛国にいたらむとおもふ心ざしふかゝりけれど、功銭なきによりて流沙をわたらず。悲歎して日月をおくるに渡守彼志をあはれみて、行人をわたす時に芳契をなしていはく、功銭なしといへども、すでに汝をわたしぬ。我後世をいのるべしと云々。彼恩を報ぜむがために、君臣となるべしといふちかひふかきによりて、行人は僧正とむまれ渡守は天皇とむまれたまふ。こゝに天平の聖主東大寺を建立し給て、十六丈の金銅の盧舎那の像を鋳奉らんとおぼしめしけるに、我朝に黄金なきによりて僧正に勅して金峯山にして祈申されける時、蔵王夢につげ給く、我山の金は慈尊出世の時、大地にしかむがためなり。近江国志賀の郡水海の岸の南に一の山あり。大聖垂迹の地なり。かの処にて祈申べしと云々。其告によりて僧正この山にたづね入に、一人の老翁岩ほの上にして釣をたれしにあへり。僧正尋問て言、汝はなに人ぞや。又このところに霊処ありや。答云、この山の上に大なるいはほあり。八葉の蓮花のごとく、紫雲つねにたなびきて、瑞光しきりにかゞやく。観音利生の砌、地形勝絶の境なり。我は又当山の地主、比良明神也と云てかきけすやうにうせにけり。古老の伝云、天智天皇の御宇、此山にあたりて紫雲常にかゝれり。天皇あやしみて勅使をつかはしてみせられけるに、山の半腹に八葉の巌石あり。奇雲そひきくだりて帯をなせり。誠大霊垂跡の勝地なりといへり。みれば前に池あり、八功徳池の流をうけて、弘誓のふかき法をおしへ、後に山あり、補堕落山のかたちをうつして、大悲のたかきめぐみをあらはすものなり。

(『石山寺縁起いしやまでらえんぎ』第1段詞書ことばがき[8] [9] [10] [11]

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第2段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第3段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第4段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第5段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第6段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第7段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第8段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第9段の詞書ことばがきと絵図

 

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石山寺縁起絵巻いしやまでらえんぎえまき』第10段の詞書ことばがきと絵図

 

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参考: 「国立国会図書館デジタルコレクション」と「国立国会図書館オンライン」のウェブページ

「国立国会図書館デジタルコレクション」のウェブページ

石山寺縁起. [1] - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2589669

石山寺縁起. [2] - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2589670

石山寺縁起. [3] - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2589671

石山寺縁起. [4] - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2589672

石山寺縁起. [5] - 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2589673

 

「国立国会図書館オンライン」のウェブページ

石山寺縁起|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000001-I000007276033-00

石山寺縁起 [1]|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000003-I2589669-00

石山寺縁起 [2]|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000003-I2589670-00

石山寺縁起 [3]|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000003-I2589671-00

石山寺縁起 [4]|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000003-I2589672-00

石山寺縁起 [5]|書誌詳細|国立国会図書館オンライン
https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/detail/R300000003-I2589673-00

 

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脚注
  1. 出典:藤原長能『新古今和歌集』. [Back ↩]
  2. 出典:藤原家隆『新古今和歌集』. [Back ↩]
  3. 参考: 「しがのうら【滋賀浦・志賀浦】 滋賀県大津市の琵琶湖南西岸の地。⦅歌枕⦆ 「 -や遠ざかり行く浪まより氷りて出づる有明の月/新古今 冬」」, 「大辞林 第三版の解説」, 「滋賀浦・志賀浦(しがのうら)とは - コトバンク」より, 2019年12月30日閲覧. [Back ↩]
  4. 出典:阿部泰郎 (1980年) 「一節 比良明神: 東大寺縁起」, 「四章 比良山の神々」, 「一、比良山系をめぐる宗教史的考察: 寺社縁起を中心とする」, 「論文篇」, 元興寺文化財研究所(編集), 『比良山系における山岳宗教調査報告書』, 元興寺文化財研究所, 37ページ. [Back ↩]
  5. 出典:阿部泰郎 (1980年) 「二節 白鬚明神: 比叡山縁起」, 「四章 比良山の神々」, 「一、比良山系をめぐる宗教史的考察: 寺社縁起を中心とする」, 「論文篇」, 元興寺文化財研究所(編集), 『比良山系における山岳宗教調査報告書』, 元興寺文化財研究所, 48~49ページ. [Back ↩]
  6. 出典: (1985年) 「五所明神祠中院」, 「寺門伝記補録じもんでんきほろく第五」, 三井寺法燈記編纂委員会(著者), 三浦道明(監修), 三井寺法灯記みいでらほうとうき(『三井寺法燈記』), 日本地域社会研究所, 255ページ. [Back ↩]
  7. 参考文献: 「志うらゆるけしきのことなるは比良ひら高嶺たかねに雪やるらん」; 慈円じえん(慈鎮和尚じちんかしょう)(原著者), 石川一(著者), 山本一(著者), (2008年) [歌番号35], 「雪」, 「百首和歌 十題(初度百首)」, 久保田淳(監修), 『拾玉集 上 (和歌文学大系 ; 58)』, 明治書院, 8ページ. [Back ↩]
  8. 参考文献: 『石山寺縁起』, 鷲尾順敬(編集) (1927年) 国文東方仏教叢書こくぶんとうほうぶっきょうそうしょ 第2しゅう 第6巻』, 東方書院, 129~132ページ. [Back ↩]
  9. 参考文献: 『石山寺縁起』(『続群書類従28上釈家部』所収). [Back ↩]
  10. 注記:引用者が、この引用文のなかの旧字体を新字体に変更しました。 [Back ↩]
  11. 引用文のなかの太文字や赤文字や黄色の背景色などの文字装飾は、引用者によるものです。 [Back ↩]