上掲の画像は、「江戸時代の酒呑童子の絵巻物を、みんなで修復して、 みんなで共有しよう」というクラウドファンディングのプロジェクトについての画像です。ここでは、このクラウドファンディングのプロジェクトについて、ご紹介したいとおもいます。
ぼくは、いま、『大江山絵詞』(おおえやまえことば)と呼ばれる絵巻物に描かれている酒呑童子(酒天童子)の説話について研究しています。『大江山絵詞』の絵巻物は、鎌倉時代~南北朝時代(室町時代前半)ごろにつくられたとされている、現存最古の酒呑童子説話をつたえる絵巻物です。『大江山絵詞』は、もともと、香取神宮に所蔵されていたものなので、通称として「香取本」(かとりぼん)とも呼ばれます。 (ちなみに、『大江山絵詞』(香取本)の詳細については、こちらのブログ記事で紹介しています。)
『大江山絵詞』は、酒呑童子説話についての現存最古の文献・文化財です。ですが、酒呑童子説話についての文献や芸術品は、これ以外にもたくさんあります。酒呑童子の説話は、中世から現在までの約600年以上の長い歴史のなかで、絵画や、文学、能楽(謡曲)、浄瑠璃、歌舞伎、演劇、唱歌・楽曲、映画、マンガ、アニメ、ゲームなどなど、数え切れないほどたくさんの文化や芸術に取り入れられてきました。それらのなかには、文化財として、とても価値が高いものもたくさんあります。
そうした酒呑童子説話をつたえる文献・芸術品のひとつに、現在、立命館大学アート・リサーチセンターに所蔵されている、『酒呑童子絵巻』と呼ばれる5巻の絵巻物があります。この絵巻物は、江戸時代前半の1650年ごろに、京都で作られたと推定されているそうです。
130年ぶりに帰国した『酒呑童子絵巻』
この、立命館大学アート・リサーチセンターに所蔵されている『酒呑童子絵巻』は、江戸時代に京都でつくられたあと、明治時代に日本から海を渡って、アメリカのボストンや、ヨーロッパ(ベルギーの首都ブリュッセルなど)の各地をめぐったすえに、130年ぶりに京都にもどってきたそうです。
その『酒呑童子絵巻』を修復するためのプロジェクトが、冒頭でお話したクラウドファンディングのプロジェクトです。
※余談:酒呑童子についての絵巻物のなかに、おなじ名称の絵巻物が複数ある理由。
(※下記の「表示/非表示」を押していただくか、脚注のなかの「 [2]」をご参照ください。)
「CC BY-NC-SA4.0」のライセンスによって、「文化資源の魅力を存分に引き出す「方法自体の開発」のサンプル素材としていきたい」
このクラウドファンディングのプロジェクトについて、ぼくがとくにつよく興味をひかれたのは、このプロジェクトの紹介ページのなかにあった、「技術応用が可能なデジタルアーカイブとしてオンライン上にキープし、さまざまなデジタル技術応用の素材として提供します」という一文でした。その部分の文章の全体は、下記のとおりです。これはつまり、修復された『酒呑童子絵巻』を撮影した写真の画像データは、誰でも利用できるライセンスのもとで公開される、ということです。
本プロジェクトの構想はそれだけではありません。その後、技術応用が可能なデジタルアーカイブとしてオンライン上にキープし、さまざまなデジタル技術応用の素材として提供します。これにより、世界中の意欲のあるクリエーターが自由に扱い、様々な見せ方、文化資源としての活用方法の事例を提案してくれることになるのです。このような文化資源の魅力を存分に引き出す「方法自体の開発」のサンプル素材としていきたいのです。
皆さまのご支援により、この日本の貴重な文化資源を、もう一度生き返らせて、みんなで鑑賞できるようにし、さまざまな文化情報の可能性を生み出す源泉としてみたいと思っております。
ぼくは、こういったオープンソース的な考え方が大好きです。(ちなみに、ぼくが好きなオープンソースのライセンス形態は、「MITライセンス」と「CC BY」(「クリエイティブ・コモンズ 表示」)です。)ですので、この修復プロジェクトの目標として掲げられている「"みんな" で共有・活用したい」という部分には、とても共感しました。
ぼくが、このクラウドファンディングに興味をもった理由としては、下記のような、複数の観点からの理由があります。ですが、これらのいろいろな理由のなかでも、とくに、「この修復プロジェクトの、オープンソース的な考え方に共感したから」という理由が、かなりおおきいです。
- この修復プロジェクトの、オープンソース的な考え方に共感したから。
- 酒呑童子の説話を研究するにあたっての参考にしたかったから。
- 文化財や酒呑童子説話についての研究者の方から、直接お話をお聞きする機会がほしかったから。
- アカデミックな世界や、文化財の分野で、クラウドファンディングがどのように貢献できるのか、ということを知りたかったから。
- 国宝の修復も手掛けるという職人さんが、絵巻物の修復作業をされている現場を、自分の目で見てみたかったから。
- 酒呑童子についての分野を盛り上げるための一助になりたかったから。
- 「この絵巻物は、江戸時代に京都でつくられ、明治時代に日本から海外にわたり、世界各地をめぐったすえに、130年ぶりに京都の地へもどってきたものである」という「ストーリー」がおもしろいとおもったから。
- 文化財である絵巻物をつかって、VRの映像コンテンツをつくるという企画を、自分の研究プロジェクトにも取り入れたかったから。
- ぼく自身が京都市の出身者であることなどなどなど、そこはかとなく、はんなりとしたご縁を感じたから(笑)。
ちなみに、「この『酒呑童子絵巻』は、修復完了後にどのようなライセンス形態のもとに公開されるのか?」という疑問を、この「『酒呑童子絵巻』修復プロジェクト」の主催者である赤間亮さんに直接お聞きしてみました。そこでいただいたご回答によると、このプロジェクトによって修復された『酒呑童子絵巻』の画像データなどは、「CC BY-NC-SA4.0」(「クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際」)のライセンスのもとに公開します、とのことでした。
(参考)
Creative Commons — 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際 — CC BY-NC-SA 4.0
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja
この修復プロジェクトが完了したあとに、この『酒呑童子絵巻』のデータを活用して、どんなおもしろいものがうまれてくるんだろうと考えると、いまからワクワクがとまりません!
(o≧ω≦)O
絵巻物がVRの映像コンテンツに
さきほど、すこし触れましたが、修復された『酒呑童子絵巻』の絵図や詞書を撮影した高精細写真の画像を3D空間に設置して、VRの映像コンテンツにすることもなされるそうです。これによって、パソコンやタブレットなどをつかって、VRの映像コンテンツを見ることで、実際に美術館で絵巻物を鑑賞しているような体験ができるそうです。
ちなみに、『酒呑童子絵巻』の写真のデータをつかってつくられた、見本用のデモの3D映像の動画は、この絵巻の修復プロジェクトのクラウドファンディングのページのなかの、「修復した絵巻の1部をVRで先行公開!特別鑑賞権」という名称のリターン(リワード)のところで見ることができます。
絵巻物の修復現場を見学してみたかったので
ちなみに、ぼくは、このクラウドファンディングのプロジェクトを支援させていただくあたって、数あるリターン(リワード)のなかから、「めったに入れない絵巻修復現場の「特別見学会」にご招待」という名称のリターンをえらびました。このリターンをえらんだ理由はいろいろあるのですが、なかでもとくに、「絵巻物の修復現場を見学してみたかったから」という理由がおおきいです。
もし、あなたがおなじリターンに申し込まれていたとしたら、「絵巻修復現場の特別見学会」のときに、お見かけすることがあるかもしれません。
達成率113.9%突破おめでとうございます!
すばらしいことに、このクラウドファンディングのプロジェクトは、プロジェクトの終了日時よりもだいぶ前に、はやくも目標金額である200万円を集めることに成功しました!おめでとうございます!
d(≧∀≦)b
すでに目標金額は達成されているのですが、もし、あなたがこの修復プロジェクトに共感する部分があったり、なにか興味をひかれるところなどがあれば、このプロジェクトに参加してみていただくのもいいのではないかとおもいます。
赤間さん、そして、立命館大学アート・リサーチセンターのみなさんや、ブルーバックスアウトリーチのみなさん、そのほかの関係者のみなさん、とてもすばらしいプロジェクトを立ち上げていただいき、ありがとうございます!そして、おめでとうございます!
m(_ _)m
支援者への「ご賛同の御礼」のおたよりと、リターンについてのおたよりが届きました
2019年11月17日に、このクラウドファンディング・プロジェクト「数奇な運命をたどった「酒呑童子絵巻」を修復し、 "みんな" で共有・活用したい」の支援者への「ご賛同の御礼」のおたよりと、リターンについてのおたよりが、立命館大学アート・リサーチセンターさんから届きました。
「ご賛同の御礼」と言われると、なんだかすこし、おもはゆいですが、こうしたおたよりをいただけることは、とてもうれしいです☆
(o≧ω≦)O
立命館大学アート・リサーチセンターについて
ちなみに、この『酒呑童子絵巻』修復プロジェクトのクラウドファンディングの主催者である赤間亮さんは、立命館大学アート・リサーチセンターに所属されています。立命館大学アート・リサーチセンターでは、下記のURLのウェブページのなかに列挙されているような各種のデータベースにおいて、文化財などの画像データを公開しています。それらの画像データなどは、「CC BY-NC-SA4.0」(「クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 継承 4.0 国際」)のライセンスのもとに公開されています。ですので、このライセンスに従うことで、誰でも利用することができます。
(参考)
データベース-立命館大学アート・リサーチセンター
https://www.arc.ritsumei.ac.jp/database.html
ご利用ガイド-立命館大学アート・リサーチセンター
https://www.arc.ritsumei.ac.jp/guide.html
(参考)
立命館大学京都近代染織資料データベース
https://www.dh-jac.net/db1/yuzen/index.php
ARC浮世絵検索システム
https://www.dh-jac.net/db/nishikie/
ブルーバックスアウトリーチについて
ちなみに、この『酒呑童子絵巻』修復プロジェクトのクラウドファンディングは、ブルーバックスアウトリーチ(Bluebacks Outreach)という名前のウェブサイトをつかっておこなわれています。
このブルーバックスアウトリーチというウェブサイトは、クラウドファンディングをおこないたい研究者の方々のためのウェブサイトです。ブルーバックスアウトリーチが目指しているのは、「科学の現場で活躍する研究者のみなさんと市民をつなぐ」ということだそうです。
なお、「ブルーバックスアウトリーチ」という名称のなかに、「ブルーバックス」という言葉がついている理由は、自然科学についての本のシリーズとして有名な「ブルーバックス」の講談社さんが運営されているからだそうです。
(参考)
About Us | ブルーバックスアウトリーチ | 講談社
https://outreach.bluebacks.jp/about
もっとたくさんの「CC BY」へ向けて
ここまでお話させていただいたように、この『酒呑童子絵巻』修復プロジェクトは、オープンソース的な考え方のもとにおこなわれています。
それとおなじようなかたちで、これから、もっとたくさんの著作物が、 どんどん 「CC BY」(「クリエイティブ・コモンズ 表示」)のライセンスのもとで共有されるようになる方向を目指していくことで、 もっともっとおもしろい社会になっていくだろうなとおもいます。そして、そのような創作環境のなかで、どんなおもしろいものがうまれてくるんだろうと考えると、いまからワクワクがとまりません!
(o≧ω≦)O
- キャプチャ画像に写っているウェブページ:数奇な運命をたどった「酒呑童子絵巻」を修復し、 "みんな" で共有・活用したい。 | ブルーバックスアウトリーチ | 講談社.[Back ↩][Back ↩][Back ↩][Back ↩]
- ※余談:酒呑童子についての絵巻物のなかに、おなじ名称の絵巻物が複数ある理由。
以下は、余談です。
酒呑童子の物語をつたえる絵巻物はたくさんあるのですが、それらの絵巻物のなかには、異なる絵巻物でありながら、おなじような名称で呼ばれている絵巻物がけっこうたくさんあります。
たとえば、異なる絵巻物でありながら、「酒呑童子絵巻」という名称や、それとほぼおなじような名称で呼ばれている絵巻物は、たくさんあります。それらの絵巻物は、どれも酒呑童子の説話が描かれている絵巻物であることから、どうしてもおなじような名称になってしまうようです。
また、「酒呑童子が大江山を居城としていた」というたぐいの説話をつたえている絵巻物も複数あるのですが、それらの絵巻物は、大江山の酒呑童子の物語を、絵図と文章(絵詞(えことば))で描いていることから、「大江山絵詞」というおなじ名称で呼ばれることがあります。たとえば、『大江山絵詞』という名称で呼ばれる絵巻物は、ぼくが知っているものだけでも、3つほどあります。ですので、特定の絵巻物をより正確に指し示したい場合は、『大江山絵詞』という名称だけで言いあわらすのではなく、「香取本」という別称もそえて、「香取本『大江山絵詞』」などといった表記にする場合があります。
ちなみに、もともと、絵巻物そのものに、その絵巻物の題名が書かれていない場合もあります。その場合には、その絵巻物の研究者が便宜的にその絵巻物に仮の名称をつけることがあります。そのときに、内容が似ているほかの絵巻物とおなじような名称がつけられることもあるようです。[Back ↩]
- 出典:数奇な運命をたどった「酒呑童子絵巻」を修復し、 "みんな" で共有・活用したい。 | ブルーバックスアウトリーチ | 講談社.[Back ↩]
- 引用文中の太字や赤色文字の文字装飾は、引用者が加えた文字装飾です。[Back ↩]